いとしのカブキチ

何匹かいたカブトムシはほとんどが死んでしまって一匹だけ
生き残っている。

その一匹は自分よりチビの小兵にいびられていた。
だから土の中に潜って殆どおとなしくちんまりとしていた。

たまに出てきてえさにありつこうとしたら、小兵にどつかれて
ほうほうの体で逃げ帰った。
しかたないからゼリーを二つ、かけ離れた所において置いて
「けんかするな!離れ離れで食え!」と言い聞かせた。
ところが朝起きてみたらゼリーが二つ仲良く並んでいた。
小兵がお前に食わすか!とゼリーを全部横取りしたか
二匹ならんで仲良く食ったか。
それともゼリーが仲良しさんだったか。

やがて小兵が死んでしまった。
するとどうだろう。
一匹だけ生き残ったカブトムシ(仮称;カブキチ)は
いきなり元気ハツラツになった。
大概土から出て、元気良く暴れている。ゼリーも食欲旺盛に
食べるし、何度も何度も脱走を試みる。
頭のいいやつで、プラスチックの蓋を持ち上げて何度も
脱走した。
おまけに根気強い。

段々気の毒になってきて、生まれ故郷の広い公園に返して
やろうかというと、子供が嫌だ!とのたまう。
「このカブキチ…もしやメスを欲してるのでは?!」と
私が呟いたが最後、子供がメス!メスを買ってこよう!!!と言う。
なぬ?
カブキチの恋人を買ってくるだぁ?!
カブトムシは買うもんじゃない!
などと反論する親であった。

カブキチは元気だがいつまでも生きてはいない。
どうしたらいいもんだか。
公園に放しに行ってやりたいな。
こんなにも出たがってるんだし。
それともこの住みかに慣れてしまった今、野生生活は困難かな。
ごめんよ、カブキチ〜!!!
と心の中で叫んだ。